2013年5月24日金曜日

読書感想 「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」

村上春樹の上記のような長い名前の小説を読みました。読む前にアマゾンの評判になった一つ星のレビューを読んでしまったので、あんまりおもしろくないのかなあとこわごわ読みました。

でもおもしろかったです。彼の水準から言えば長い小説ではないけれど、それでも普通の長い小説でした。いったん読み始めるとなかなか本を置くことが難しく、一気に読んじゃいました。

例のアマゾンのレビューを書いた人は、あまりにもお洒落で都会的、洗練された部分がどうも鼻につくようです。それはすごくわかります。何かあると気の利いたたとえや返答が会話には登場するし、会話の文体も絶対に現実にありえないような文体。ちょうど吹き替えの映画のような口調です。だからここで挫折する人の気持ちもわからなくもありません。

私はもう30年近く彼の作品は全部読んでるので気にはならないけど、逆にちょっと飽きてくる部分はありますね。

筋がばれない程度に話の内容を説明すると、主人公が 高校時代に仲良くしていた5人グループから、ある日突然絶交されます。それが原因で主人公は死を思いつめるまでになり、その危険な時期をやり過ごしてからも、他人と親密な人間関係を築くことが難しくなる。それから16年の年月が経ち、その時付き合い始めた彼女から、昔の友人たちに会って絶交された原因を探り、問題の根源を解決しないと、付き合い続けられないと言われます。

それで彼女の助けを借りて昔の友人たちと次々再会し、当時の事情を知っていくという話です。

確かにすごく早く読めたしおもしろかったんだけど、村上春樹の水準としては物足りないかな。高校時代の友人との関係、大学の時の唯一の友人との関係はおもしろいと思ったけど、それがこの現在のガールフレンドとの関係にうまく結びつかない。彼女がそんな魅力的な人に描けていないし、彼女との関係にも絶対的なエネルギーがない。

昔の友人から受けた理不尽な仕打ちのせいで人間不信になり、対人関係がいまひとつ深く意義深いものにならない。それでそれが解決し、これから彼の人生は好転するのでは・・・・、というストーリーラインは、ありふれてるといえばありふれてます。

でも結局私にとってこの小説がいまひとつ心を打たないのは、一つには登場人物がいまひとつ魅力に欠けること。そして主人公が絶対的なパッションを持って誰かを、もしくは何かを求める、探し出そうとする、そういう力というかエネルギーが欠如してるからだと思います。

村上小説で一番好きなのは、たくさんあるけど一つ上げるなら、海辺のカフカ。登場人物が魅力ある人間ばかりで、しかもシチュエーションがどうにもならないものばかり。そして行き場のない何かを希求する大きい力。

それからあんまり有名な小説ではないけど「国境の南太陽の西」という小説も好きです。これは平たくいうと不倫の話なんだけど、 なんかね、心を惹くものがあるんですよ。

そのほかにも昔の短編集ですが、「中国行きのスローボート」「納屋を焼く、その他の短編集」という短編集がすごくよかったように記憶してます。まあ昔に読んだから今読むと感想は変わってるかもしれないけど。また読み直します。

ではよろしければこちらのボタンのクリックお願いいたします。
 
ヨーロッパ(海外生活・情報) ブログランキングへ

2 件のコメント:

あくあ さんのコメント...

そうなのかぁ。久しぶりに発売されたからテレビとかでも結構騒いでたので読もうと思ってたけど、今、他に読みたいものがたくさんあるから、また今度にしようっと。

私は彼の文体、好きです。でも、ストーリーも相当変わってると思うけど、何であんなに大衆的に売れるのかなぁ?

Atsuko さんのコメント...

あ、でも普通にお勧めですよ。ただ彼のカフカやクロニクルや1Q84なんかの大作に比べると、テーマがちょとと普通すぎるなあというだけで。
あの突拍子もない、メタファー的なストリーラインが好きなので、こういう普通の設定はちょっと肩透かしくらった感じかな。
何で大衆受けするか。文体が読みやすいって言うのはあるよね。それにストリーが突拍子もなくて、スリラーのようにどんどんページを進みたくなるし。イギリスでも結構売れてるみたいよ。