2009年6月30日火曜日

バレエの先生


チャーリーのバレエの先生の名前はマリオン・リンジーといいます。年は50台半ばくらいだと思う。元ロイヤルバレエのプリンシパル(一番上の地位)バレリーナです。外見は背が高くて足が細くて、ぱっと見はずっと若く見えますが、ヘビースモーカーなのでよく顔を見ると、それなりの年に見える。写真の一番背の高い人が彼女です。


彼女は、まさにプリマドンナを絵に描いたような人です。まず話し方が、気取っているというか、とにかく芸能界とか劇場関係に長くいたような人のようにしゃべります。何かと感情過多で大げさ。


やさしい子供のバレエ教室の先生、という人ではありません。彼女は本当はプロだとか、セミプロを教えるのが一番向いていて、20歳前後のダンサーを教えるのが一番楽しそうです。


バレエのクラスは、一番下のクラスは3歳位からなんですが、そのくらいの子供にまで、「レディース!」と話しかけています。チャーリーのクラスは下から3番目。クラスの中にはチャーリーを入れて4人です。


マリアンははっきり言って、怖い先生です。でもすごくいい先生でもある。ほんの少しのミスでも、彼女は見逃しません。彼女についていければ、本当に上達すると思います。彼女のクラスでは、ふざけたりだとか無駄口を利いたりは、小さい子供でもしません。先生が本気なんだということが、幼い子供にもわかるようです。彼女は子供たちに、子供だましのかわいらしいダンスを教えたりなんかしません。すごくスタンダードの高いものを要求するんです。


たとえばこの前の白鳥の湖。チャーリーたちがしたのは、プロが踊るのよりはかなり簡単にアレンジしてあるのですが、それでもすごく難しい。それをなんと3週間で教えて(週に2回)、ステージに上げても恥ずかしくないまでに仕上げたんです。チャーリー以外の3人のお母さんたちは、彼女たち自身もプロのダンサーで、短大でダンスを教えているのですが、その彼女たちも、ちょっとそれは無理なんじゃないかなあと言っていました。でも、厳しく叱りながらも、8歳から10歳の子供たちにそれをやらせてしまうんです。


チャーリーはバレエを始めて3年くらいになります。チャーリーはクラスで泣いたことはありませんが、おなかが痛くなったりしたことはある。厳しく言われて泣く子供はたくさんいます。それでもがんばってついてきている子供は、子供ながらに、「私はバレエが好き。がんばって上達したい。」と思って、がんばります。まるでスポ根。でもちょっときつく言われてすぐに泣く子は、やっぱりやめていきます。


このバレエスクールは、どうやって経営が成り立っているのかと思うくらい、生徒が少ないのですが、マリアンはそれでもやめていく子はやめていけばいいと思っているようです。楽しく踊りを習いたいなら、そういう学校をほかに探せばいい。厳しいレッスンについてこれる人だけがついてくればいいと思ってるんです。


彼女は厳しい。でもそれには愛情がこもってるということは、子供たちもわかってきているようです。子供たちへの愛情。そしてバレエへの愛情。それがひとつになって、自分の生徒たちを立派なダンサーにしようという情熱になっている。チャーリーのように数年マリアンの下についている生徒たちは、みんなそれがわかってるんですね。


日曜のパフォーマンスですが、その前と前々週の土曜は1日中リハーサルだったのですが、それはレッスン代は無しでした。パフォーマンスの当日は彼女は2時間前から楽屋にみんなを集め、全員のヘアとメークをして、小さい子供たちの衣装を着せます。チュチュは自前のこともありますが、彼女がたくさん持っていて、貸してくれることもある。朝から本当に大変だろうと思うのに、別にそれも料金は取られません。


それだけではないんです。今回の白鳥の湖の衣装は、私達が買ったチュチュはただの白いベーシックなものだったので、彼女はそれに全部白い羽を縫いつけて、頭の飾りも1日がかりで作ってくれました。それも材料費は彼女もちです。


ロイヤルバレエのポジションなんて、世界中から何万という志願者がたった一つのポストを求めてオーディションするような世界です。その中でもプリンシパルはその中の頂点。ロイヤルバレエのプリンシパル以上の地位は、ダンスの世界にはありません。そんな人と知り合いというだけでも、バレエファンの私はすごいことだと思うのに、その人に教えてもらえるなんて、チャーリーって本当に幸せ。


レッスン中にマリオンが例を見せるためにちょこっと踊ったりすると、私なんてもう、本当に、自分の幸せが信じられないくらい感動します。ロイヤルバレエのプリンシパルを、2メートル前で見れるなんて。50歳を越しても、バレエスクールのどのダンサーよりも彼女は素晴らしい。それを見ているだけでも、レッスン代なんて安いものだわ、という気がしてきます。


チャーリーがバレエを嫌になってやめるなんて言い出したら、私がすごく寂しいだろうなあ。

2 件のコメント:

こんの さんのコメント...

あつこさんの書きたい気持ちが、よく伝わってきます(感動すら覚えます)
すごくいい人(先生)に出合われたのですねぇ
お子さんも幸せでしょう
叱られても、なぜ叱られたのか納得できるのですね
やはり「愛」を感じるのでしょう
そういう人にはなかなか出会えない! だいじにしたい関係です
読んだ私までいい気分になりました

Atsuko さんのコメント...

そういっていただいて嬉しいです。彼女は一筋縄ではいかない人なので、書きたいこと、いいたいことはたくさんあるのに、ブログにちょこっとかけるように、私の頭の中がまとまってるわけではないので、自分でも稚拙な文章になったなあと思いながら、書いていました。

彼女と仲たがいしたり、もめたりする人もいるのですが、こういうキャラクターの人はほかにはいないから、私だったら、彼女に何を言われても、まああまり気ににならないと思います。