昔(今から15年以上も前)に読んだときは、ロマンスや人間ドラマのほうばかり記憶にあって、たぶん戦争の場面や戦略的なものや歴史的解釈ははしょって読んだんじゃないかと思います。正直言って、この本を読む大半の人はそうするんじゃないかと思う。
だってナポレオン率いるフランス軍の人事の話や、ロシア軍がどうやって陣地を選んだかなど、あんまり興味を引きませんからね。しかもロシア人の名前だけでも長いのに、地名まで一々頭に入れて読んでられません。
でも私は今は日本語の本がほとんど手に入らない環境にいるので、1ページずつゆっくり読んでます。なので戦争の部分もぜんぜん飛ばさずに。
トルストイの戦争に関する描写とか解釈とか、本当にこの人は文豪で天才。何がすごいって、視点になんの偏見も曇りのないんです。
戦争なので人がたくさん死ぬし、殺されます。ばたばたとあっさり死んでいく場面もある一方、主な登場人物の死に関しては、それが貴族であれ百姓であれ、個人的な詳細と感情、家族の苦しみが書かれています。まるでゲームのように、Life is cheapと言う感じで死ぬ登場人物もいるし、その死にいたるまでの葛藤や精神状態が何10ページにも書かれていたりします。
殺すほうも「フランス兵を20人くらい叩き殺しときました。」なんて描写もあれば、弱った捕虜を射殺しなければいけなかった兵士の苦悩が描かれていたり。
でも一番すごいなあと思うのは、若い兵士達が、どれだけ戦争で生き生きと、水を得た魚のように心を弾ませたり、意気高揚させたりしているかという場面を描く視点です。若い兵士だけではなく、恋に破れた主人公の一人が、戦いに身を投じることで活力を得る場面や、戦闘前夜の兵士達の高揚した雰囲気など、幾たびか描かれています。
そしてその一方で、貴族や百姓たちの個人レベルでの苦しみや、無益に死んでいく双方の兵隊達の話し、捕虜達の苦しみなど、戦争の無残さもたっぷり出てきます。
戦争の無残さについてはどんな本にも映画にも出てきますが、戦争がどれだけ人間に活力を与えるか。それについて正直に描かれている場面って、こんな古典小説でも少ないし、ましてや戦後の日本ではタブーですからね。私も正直言って、ここ数年前まで、そんなこと思いもつきませんでした。(初めてそれを考えたのは、ニコールキッドマンとジュード・ローの主演したCold Mountainと言う映画を見たとき。)
そんなこと思っていたら、数日前のエイブラハムからの今日の言葉にこんなことが書いてありました。
Don't worry about those who are fignting in the war. They are more alive than you.
(戦っている兵隊達について心配するな。彼らはあなたよりも生き生きとしている。)
そういえば、今日はニュースでアフガニスタンで軍務についているイギリスのプリンス・ハリー(ダイアナ妃の次男) についてレポートしてました。彼のアフガンでのキャンプや暮らしぶりについてのビデオがちょっと流れていました。普通の若い兵士に混じって、普通に命の危険にさらされながら勤務しているとのことで、「必要があれば敵を殺しもした。」とコメントがあったそうです。
プリンス・ハリー。軍務を終えてイギリスに帰ってきたら、すべての生活が退屈で怠惰でつまらなく思えるんじゃないかなあ。普通人でも、日常生活のしがらみが嫌になるときがいろいろあるのに。兵隊生活から宮殿での皇室暮らし。どうなるんでしょうね。
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2 件のコメント:
そういう大作を読める心の余裕があるのっていいね・・というか、私がよほど心に余裕がないとその手の本に手を出そうと思えないだけなんだけど。
それから、年齢でものごとの受け止め方って変わりますね。戦争に活力をもらうなんて私も考えたことなかったけど、若い男の子たちはそうなんだろうな。わかる気はします。そういうのも描けるのってやっぱすごいね。現代でやっちゃうと、いろいろ言われるんだろうなぁ。ま、作家は外野に負けちゃやってられないでしょうけど。
不思議といえば不思議かもしれないけど、エイブラハム的見方がいろいろ出てきます。この件に関しては、戦争の是非ではなく、戦争と言うコントラストを通じて「欲望」が生まれて、それが生命のエネルギーの源になるとか。
あと「神」についての、キリスト教的でない解釈もいくつか出てきて、その辺もエイブを理解してから読むとすごくよくわかったり。しかもあの時代にそんなニューエイジ的な宗教観を描くと言うのもすごいなあと思いました。
トルストイもすごいけど、改めてエイブラハムの教えの普遍さを実感。
戦争に限らず、危機的状況のほうがぬるま湯的状況よりも好ましいって言うのは、言葉にしないけどよくあることなんじゃないかなあ。
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