長い長い話なので詳細は避けますが、トルストイの一番すごいところは、登場人物やイベントの描写です。特に半ば以降、ロストフ家の若い人たちが狩猟したり、クリスマスに仮装して出かけたりというその高揚と興奮の場面など、まるで登場人物の上気した頬の色と白い息が手に取るように感じられました。
小説の最後は主人公のピエールとナターシャの結婚生活と、ナターシャの兄のニコライと公爵令嬢マリアの結婚生活の描写で終わります。
誠実で正直者でありながら放蕩癖のあったピエールはすっかり家庭人になり、若々しく生命力に溢れていたナターシャは、5人の子供を育てるしっかり物のお母さんとなり、旦那ピエールを尻に敷きます。現実的で実務力のあるニコライは傾きかけた家庭の財政を立て直し、美人ではないものの心の気高い妻と、お互い理解しあえないながらも尊敬尊重しあい、こちらも子宝に恵まれ、「幸福な」家庭を築きます。ハッピーエンドというわけです。
でも、この「幸福な家庭」というところが引っかかるというか、トルストイは、こういうのを幸せな家庭のある形の一つとして描いてるんだけど、現代人の私達にとっては、うらやましいような幸せさとは言えないですね。むしろ私には、ここに描かれている結婚なんて、配偶者のために自分を殺していて 息苦しそう。そして退屈そう。
偶然なのか意図的なのか、たぶん意図的だと思うけど、小説の初めのほうで、戦争で早死にしてしまうピエールの親友のアンドレイ(妻帯者)がピエールに、 「君、絶対に、絶対に結婚しちゃいかんよ。」という場面が、すごく強く印象に残ります。
そこから最後に至るまで、ハーレクインロマンス(なんてものがまだ日本にあるのかな)顔負けのすごい紆余曲折があるわけです。
でも150年くらい前に書かれた小説ですからね。その頃の結婚観は、やっぱり今とは違うもんなあ・・・と思いきや、実はトルストイの「戦争と平和」の次の小説は、世紀のよろめき小説の「アンナカレーニナ」。そこでトルストイは、「平和で幸せな結婚」像を、これでもかこれでもかとぶち壊します。
解説によると、トルストイも若い頃はすごく幸福な結婚生活を送ったものの、結局は妻を捨てて何度も家出して、 最後は家出先で野たれ死んだとか。なので彼自身の結婚観も変わったのかもしれませんね。
素晴らしい名作であることは間違い無し。でも、とってもいい小説ですから是非読んでみてください・・・・とは、簡単にはお勧めできない小説です。長くても大丈夫という人や、活字中毒で小説は長ければ長いほどいいという人は是非どうぞ。
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4 件のコメント:
あぁ・・ちゃんとは読めてない作品です・・
まさかロシア語でなんて読めませんしね。
次、日本の図書館帰ったら
即効で借ります☆
XaHRmaさん、長い割には案外さらさらと読めました。ただし戦争論、ナポレオン論とのことは退屈でした。
私の読んだのは工藤精一郎という人の訳でした。今は新しい訳本が出てるかもしれませんね。
図書館で本を借りるほど長く日本に行く予定ですか?いいですね。
そうか・・・私は一生読めないかもなぁ。しかし、そういう長編に取り組める心の余裕がある生活がうらやましいです。私はなんだか知らないけどいつもばたばたしてるなぁ・・・
あくあさん、日本にいると次々本の広告が目に入るし、次々読みたい本や、読まなければいけないような気がする本が出版されているから、何ヶ月もかけて小説読みにくい環境ですね。
19世紀ロシア小説なんて、今も誰か読んでるんだろうか?
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