2012年3月8日木曜日

アンデスの飛行機事故その5

行く手を阻む山の頂点に立ったナンドが見た物は、今までと同じ光景、どこまでも続く雪山でした。がっくりとひざを折るナンドに遅れてロバートとティンティンも頂点に到着しました。

もう絶望です。ここに上るだけでもうすでに2日以上経過しています。持ってきた食料は3日分。雪の中の野宿で体力も限界に来ています。

けれども引き返すというオプションはありません。引き返せば必ず全員が死にます。前進してもおそらく同じ結果だろうけれど、少なくとも僅かな可能性だけは残っています。頂上からよく見回すと、はるかかなたの山陰に道か川らしきものが見えなくもありません。そこに向かっていこうとナンドは決心しました。

そして3人で相談の上、いちばん遅いティンティンを返して、彼の食料を持っていくことに決めました。これで少しは食料が増えます。

こうしてロバートとナンドは歩き続けました。今やっと越えたような山をもう一つ、そしてもう一つ越えていきます。

「もう一歩も動けないと思っても、息をしている限りは歩ける。そうやって一歩一歩前進した。」

この山頂にたどり着いたときの3人の気持ち。その失望。それは想像に絶します。この山さえ越えれば、助けを得られるかもしれないという気持ちだけで山頂を目指したのに、そこで見た物はまったく同じような光景。でもそこで絶望せず、前進し続ける精神力。これほどの強い精神力に出会ったことがありません。

それを考えると、人間の失望を乗り越える力の強さに圧巻されます。

こうして10日目にやっと二人は雪のない平坦な谷間に着きました。草が生えトカゲが動いています。ロバートは回想しています。「もうこれで少なくとも凍死することはないんだ。草を食べてトカゲを食べて、ここならいつまでも生き延びられると思った。」

でも実際はロバートは下痢で衰弱しきって、もう歩くことも困難なほどでした。ナンドが薪を拾いに行こうとすると、ロバートが叫びました。

「川の向こうに人がいる!」

ロバートが見たのは馬に乗った地元の遊牧民でした。二人は必死で叫びます。馬に乗った人たちは二人に気がつきましたが、向こう岸との間には早い河が流れていて、お互いに何を言っているのか聞こえません。それでも遊牧民達が「明日!」と叫んでいるのが分かりました。河を簡単に渡る事はできないので、また明日やってくるとのことのようです。

その夜二人は、初めて「助かった」という気持ちをいだいて眠りました。

さあ、今日はここまでです。また続きは明日。

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