2011年12月1日木曜日

スティーブン・ローレンス事件

昨日ちょっと触れたこの事件について詳しく書きます。これはイギリス人では誰も知らない人がいないと言うくらい有名な事件。この事件以来差別違法の法律がさらに厳しくなったりと、イギリスの社会が大きく影響された出来事でした。

1993年のある日、まじめに大学準備の勉強をしている黒人のティーンエー ジャーのスティーブンローレンスとその友人ドゥエインが夜の道を歩いていると、バス停でたむろしてた白人の若者にいきなり襲われました。ドゥエインは何とか逃げたのですが、逃げ遅れたスティーブンはナイフで刺されました。

血まみれで道に倒れる友人のためにドゥエインは警察に電話したのですが、駆けつけた警官二人はスティーブンをそのまま放っておいて近所のパブに行き、黒人の若者が麻薬取引について喧嘩していなかったか聞き込みを始めました。スティーブンとドゥエインを見て、てっきり黒人二人が麻薬がらみでけんかになって刺し合ったと決め付けたからです。

その間スティーブンの出血は止まらず、駆けつけた私服の別の警官が救急車を呼んだのですが、病院に着く前に出血多量で死にました。

その後5人の白人の若者が検挙されましたが、結局証拠不十分で、有罪にはなりませんでした。

これが新聞で大騒ぎとなり、デーリーメールという新聞ではこの5人の写真を名前入りで載せ、「お前らは殺人者だ。違うなら当社を訴えろ」との記事まで載せました。

事件から4年後にスティーブンの両親が Police complaint Authority(警察への苦情を調査する機関)に苦情を申し入れ、警察内部が調査されました。調査の不手際や怠惰が明るみなり、数人の警察官が辞職しました。

その同じ年に当時の労働党政府の内務大臣が公的調査(Public Inquiries)を指示し、さらに警察が調査されました。そこでは証拠を無くしたり、証人を事情聴取しなかったりという不手際がさらに判明。黒人の若者が殺された事件など、まともに調査する必要もないという空気があったことが明らかになり、「警察全体が人種差別的団体である。」との結論が発表されました。

これが大問題となり、先日書いたように2001年に大きく法律が変わり、イギリスにごまんとある公的団体はすべて差別を無くすことを推進しなければいけないようになったのです。

さらに警察については汚職の疑いも出てきました。スティーブンを刺した張本人と思われる白人の父親が警察の内部の人間と通じていて賄賂を渡し、「息子さんのことは俺がちゃんと面倒見るよ。」というような取り交わしがあったと新聞で報道されました。これが本当のことかどうかはわからないのだけれど、新聞には名前入りで報道されましたから、何か怪しいことはあったようです。

あれから18年の月日が流れるのですが、当時捕まって名前も写真も公表された5人は、結局証拠不十分で無罪になりました。ところがここになってDNAなどの検出の技術が向上したせいで新たな証拠が見つかり、今月主犯の二人がまた裁判にかけられることになりました。

テレビなどでよく見るスティーブンの写真は若い青年のままなのに、もうあんなに月日が流れたんですね。本当に今度こそ犯人が有罪になって欲しいと思います。

それにしてもニュースのヘッドラインでこの事件がまたクローズアップされた同じ月に、機を同じくして その彼の死がきっかけとなってできた法律に関する講習を受けることになったのは、なんとなく不思議と言うか、縁のようなものを感じました。

たかが人間一人の命とはいえ、時には社会を変えることもあるんですね。

追記:今日(2012年1月4日)、主犯の二人に判決が下されました。それについての記事も書きましたので、よろしければごらんください。スティーブン・ローレンス事件の判決

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2 件のコメント:

あくあ さんのコメント...

人間ってそうやって強制させたり洗脳されないと、根本的には自分と違うものを差別する動物なんじゃないかなぁ。

しかし、Britishの「自分たちが一番」意識は何かと鼻につきますね。大英帝国は遠い昔なのに。ま、アジアの中の日本人も同じかもね。

Atsuko さんのコメント...

確かにそういう意識がある一方、「どうせイギリスなんて落ちぶれた国さ」という気持ちもあるようで、その辺が複雑なコンプレックスになってる気もするなあ。

確かに差別的な考えを持つ集団もあるけれど(これはどの国でもなくならないだろうね)、一方で社会を正しい方向に向けようという強い意識もあるのがイギリスだと思います。

日本はまだまだ国際化して月日が若いという気がしますね。これからもっとアジアのモラルリーダーになっていかないとだめだと思う。